家庭金物卸売業の株式会社和気商店に入社した、後の二代目社長・和気博史。
彼は1960年代初頭、「日曜大工」という文化にいち早く目をつけました。この文化を普及させるべく、スーパーマーケットに日曜大工用品の売り場を作ったり、「ぼくとパパの日曜大工」のキャッチフレーズを掲げて展示会に参加したりと、精力的に活動を続けます。
今回は、そんな彼を夢中にさせたDIYや日曜大工という文化について、深く掘り下げていきます。
「Do It Yourself」のおこり
「Do It Yourself(DIY)」という言葉が産声を上げたのは、第二次世界大戦の終戦直後、ナチス・ドイツ軍の激しい空襲によって首都ロンドンが廃墟と化した、1940年代後半のイギリスでした。かつての植民地を失い、街も暮らしも破壊された絶望の中、市民たちの間には「誰の手もあてにせず、みずからの手でこの街を復興させよう」という強い決意が芽生えました。そうして街の復興のために、ペンキ塗りからレンガ積みまでを自分たちの手で行うこの国民運動こそが、DIYという文化の真の始まりだったのです。
この精神はやがてフランスへと渡り、「ブリコラージュ(bricolage、あり合わせの道具や材料で物を作ること)」という概念と結びつきます。
さらに海を越えてアメリカへ届くと、DIYはさらなる変貌を遂げました。戦災を免れたアメリカにおいて、DIYは「復興」のためではなく、豊かな週末を彩る「レジャー」として花開いたのです。
1960年代後半には、住宅用品を1ヵ所で揃えられる大型専門店「ホームセンター」が全米に出現します。これは「住まい(=home)をより良くしよう」という「ホームインプルーブメント(Home Improvement)」の思想と共鳴し、単なるメンテナンスを超えた一大産業として、特に西海岸を中心に人々のライフスタイルに深く根付いていきました。
日本における「日曜大工」の普及
欧米でDIYが確固たる地位を築きつつあった1950年代。
当時の日本では、DIYという言葉はもちろん、「日曜大工」という表現すらまだ一般人の生活には馴染んでいませんでした。
日本で「日曜大工」が広まり始めたのは、1960(昭和35)年に松下紀久雄氏が「日曜大工クラブ」を結成したことがきっかけでした。その後、東京オリンピック(1964年)に向けての好景気や、1965(昭和40)年末から57ヵ月もの長きにわたった「いざなぎ景気」といった時代の追い風を受け、日本の生活様式は急速に洋風化。豊かで潤いのある暮らしを求め、家族で日曜大工に興じる姿が、幸せな日常の風景となっていきました。
1968(昭和43)年には「日曜大工新聞」が創刊され、全国にクラブが結成されるなど、その熱狂は加速します。百貨店やスーパーでも専用コーナーが次々と新設・拡大され、1969(昭和44)年には大阪市大正区に「辻本日曜大工センター」が、また東京都八王子市には「村内(ムラウチ)ホームセンター」が誕生。各地で日曜大工専門店が産声を上げました。


当時の陳列は積み上げたものが多かった。

百貨店ということで対面販売であった。
実は、この激動の時代に誕生した「辻本日曜大工センター」こそが、和気産業が初めて手掛けた日曜大工用品の専門店です。わずか80平米の空間には、大工道具から建築金物、壁紙、園芸用品、さらにはマスターキーに至るまで、暮らしを彩るあらゆる品々が所狭しと並んでいました。バスや銭湯への広告掲出、屋上看板のライトアップなど、宣伝にも持てるアイデアのすべてを注ぎ込んでおり、この新しい文化を日本に根付かせようという情熱が感じられます。

さらに1969年には、ホームセンターの先駆けといわれる「ハウジングランド順天堂 駅前店(現・ジュンテンドー益田店)」が島根県益田市にオープン。1972(昭和47)年には、日本初の本格的ホームセンターとされる「ドイト与野店(現・コーナン ドイト与野店)」が埼玉県与野市(現・さいたま市中央区)に誕生し、日本のDIY史に大きな足跡を刻みました。
徐々に広まり始めた「日曜大工」の文化。
レジャーに恵まれた新時代にふさわしい価値観だと確信できた背景には、まだその文化が根付く前の1960年代中盤における、和気博史の冒険と奮闘がありました。
次回は、未知なる存在だったDIYの世界へ挑もうとする彼の前に立ちはだかった「高い壁」についてお話しします。
こぼれ話
「日曜大工センター」の名を聞いて、東京都新宿区にある「新宿日曜大工センター」を思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれませんね。
1946(昭和21)年創業のこちらは、もとは木材卸売業でしたが、1972(昭和47)年7月に日曜大工用品の取り扱いを開始しました。

右には和気産業のトラックが停まっています。

コリアンタウンとして有名な新大久保で韓国コスメや雑貨店、カフェなどが立ち並ぶ中で、今も変わらず昭和レトロな雰囲気を漂わせる「新宿日曜大工センター」については、過去にいいものマガジンでも取材させていただきました。
大手のホームセンターと似ているようでどこか違うという、アットホームな空気で独自路線を歩んでいるお店の全貌をぜひお楽しみください!
※この記事の内容は、弊社社史「和気産業65年の歩み」、「和気産業80年の歩み」ならびに2025年9月時の取材を元に作成しています。



